しあわせゆき №1

  カズマは電車に乗っていた。この電車に乗らなければ、中学には行けないからだ。ただそれだけの理由・・・・・・そんな理由で、カズマは毎日のように電車に乗っている。けれどカズマには電車に乗ることは嬉しいことではなかった。なぜなら中学に簡単に着く、近道ともいえるようなものだからだ。カズマは中学が、嫌いだった――。

 学校についた。いつも一緒にいる友達が教室にいた。

「カズマ、おまえ今日遅くなかったか?」

「確かにぃ。」

友達の二人が言った。(そりゃそうだ)と、カズマは思った。だってわざわざ駅からゆっくりと歩いてきたのだから。学校について支度をさっさと済ましてしまったら、友達とつるまなくてはいけない。それがいやだった。

「別に特になんかやってたわけじゃないんだけどなぁ。」

カズマは言った。それと同時に(うそつきだ、おれ)と、思った。けれど友達は納得したような、しないようなで、何とかその話題は途切れた。別に友達もいる。勉強もまあそこそこできる。別に普通の家庭――ごく普通の人間のカズマだが、何か足りないと感じていた。そして友達も家族もいて心配などないはずなのに、なぜかいつも不安な気持ちになっている。カズマはそれはきっと、中学で友達といると友達関係などでいやな気持ちになるからだろうと思っていた。そしてそのいやな気持ちを家族に受け止めてもらえないような気持ちになっているのだとも。

「知ってるか?野球部のツチノがさぁ――。」

「マジで!?

いつの間にか友達はカズマに関係ないような話をしていた。カズマはその内容を聞いていたが、いい気分になれるものでは、なかった。楽しく、なかった・・・・・・。

                     つづく

school

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しあわせゆき №2

 何事もなく今日、学校生活が終わった。とでも、カズマは思えなかった。まるで自分で急かしていたかのように時間は過ぎていた。カズマは学校から出ればすばやい速さで駅へと向かう。なぜならば、早く家に帰りたいからだ。早く家に帰って宿題をさっさと終わらせ、ベットでごろんと寝てしまいたかった。けれども駅に着くと・・・・・・ちょうど電車が行ってしまったところだった。いつもの電車に部活の終わりが遅れたせいで乗れなかったのだ。次の電車までは・・・・・・十分はある。仕方がないので待つことにした。

駅のホームに行くと、数人はいた。ギャルっぽい女子中学生がケータイで何かを打っていたり、ちょっと不気味な感じがするおじさんが立っていたり――なんだかいやな気分だった。カズマはまだ時間もあったので、ベンチに座って待つことにした。ベンチには誰も座っていなかったので、座りやすいような、逆に座りにくいような、なんともいえない気持ちになった。けれどもあまりにも今日はどっと疲れたので、許してほしい気持ちで座った。(どうしてこんなにいい気分になれないんだろう――)なんて、考えながら。特に考えたいこともなく、本でも持ってくればよかったと後悔もしながら。何もすることはなかった。

 そして、電車が来た――。

                                                  つづくsubway       

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しあわせゆき №3

 カズマは電車に何事もなく乗った。けれども心の中はどんよりしていた。部活でいつもよりもたくさんしかられたのだ。けれど別にただいつもより多くしかられただけであって、普通に部員がしかられてもおかしくないぐらい。けれどもカズマにとっては重いものだった。他の部員はしかられると、友達とひどく愚痴ったりしている。または練習してこなしてしまう。けれどカズマにはどちらもできなかった。それがカズマなのである。「おまえはどうにもならんやつだ」、顧問の先生にそう言われた。その言葉がずっと心の中に今も響いている。

「中田駅ぃ、中田駅ぃ――。」

そんなアナウンスが流れた。カズマが降りる駅はこの次の次だ。カズマはずっと電車に乗っていたいと思った。終点まで、いや、途方もなくずっとずっと。

                     つづくsoccer

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しあわせゆき №4

けれどそんなわけにはいかなかった――カズマがいつも下りている黒沢駅についてしまったのだ。カズマは自分の気持ちを抑えながらも、電車から降りた。カズマには自分に逆らう強さはあっても、現実に逆らう強さはなかった。この時間はたくさんの人が降りていて、カズマは人に飲み込まれてしまいそうな気分だった。(きっと、人間として飲み込まれてしまうだろうな)なんて思いながら。

 カズマが家に着くと、誰もいなかった。カズマは母親は中学に入ってからパートを始めたので、この時間は会えない。けれども別に愛情を注いでもらっていないわけではなかったので、寂しいとか、悲しいとか、そんな感情はない。ましては感謝や嬉しさでいっぱいである。多分、もうそろそろお父さんが帰ってくる時間になる。お母さんは夜のパートなのでまだ数時間会えない。カズマとお母さんはちょうどすれ違ったことになる。カズマは仕方がないのでお父さんを待つことにした。リビングのテーブルには今日の食事らしきものが置いてあった。どうやら「食べて」という意味らしい。けれど一人で食べるのもなんだか申し訳なく感じるので、食べるのをやめることにした。

 そんな時!

「プルプルプル――」

電話が鳴った。カズマが電話のほうに行くと、画面に「お父さん」と記されていた。どうやらお父さんかららしかった。
                  
                          つづくfaxto

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しあわせゆき №5

 カズマは電話に出た。すると忙しそうなお父さんの声がすぐに聞こえてきた。

「聞こえてるか?」

雑音でしっかりとは聞き取れない。が、何かすごい感情が伝わってくる。

「うん、聞こえてる。どうしたの?」

カズマは大きな声でそう言った。どうせお父さんがいるところはにぎやかそうなので、聞き返されるのが面倒だったからだ。でもお父さんが電話をしてくるだなんてめったにない。きっと今、何かすごいことが起こっているのだろう。

「父さんの会社が火事で今、消化してるんだ。」

お父さんはそう言った。カズマはびっくりしてしまった。けれどよくよく聞くと、消防車の音や、パトカーの音が聞こえてくる。カズマはあまりにもびっくりして気が動転してしまった。なのでこたえる気にもなれなかった。

「すぐには帰れそうにない。母さんにも伝えておいてくれ。カズマ、大丈夫だから安心し

 ろ。」

お父さんは次にそう言うと、カズマの返事を聞かず電話を切ってしまった。カズマはそんなことを言われても、納得がいかなかった。受話器からはどんなに耳を近づけても、お父さ んの声はもう聞こえない。カズマは不安が高まった。お父さんが心配だった。もしかしたら大怪我でもしているかもしれない。カズマの気持ちは深まるばかりだった。

 カズマは家の鍵も閉めずに、お父さんの会社へと走った。

                             つづくshoe

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しあわせゆき №6

 カズマは一生懸命走った。カズマに見えるのは途方もなく続く道だった。どんなに人が歩いていようが、どんなに大きな音が聞こえようが、カズマは何も気にしなかった。カズマは必死だった。自転車で行ったほうがもっと速かったかもしれない。けれど今のカズマは、行動というより感情があまりにもわいて、そんな後悔だなんてしているどころではなかった。カズマの気持ちはあまりにも先走っていた。

 駅に着いた――カズマはあわてて切符を買うと、何も考えずに電車に乗ってしまった。どこにいくのかもはっきり言って分からなかった。けれど方向が同じなので、多分通るはず。この電車にこの駅で乗ったのは、カズマだけだった。カズマはぐったりといすに座った。何かすいている時間なのか、やけに人が少なかった。外を見ても誰もいなくて、無人駅とでも言うものだろうか。カズマが乗った車両だけでも三人ぐらいしかいなかった。女性だったり、変なおじさんだったり、乗っている人はさまざまだった。けれども座っている場所が皆、離れていたのでしっかりどんな人が乗っているのか見るとことはできなかった。

「出発しまぁす。」

駅長さんがそう言った。電車が動く音がして、電車の扉が閉まって、電車が動き出した。

                           つづくrun

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しあわせゆき №7

 「お客さん、起きてくださいな。」

カズマはそんな声で体をビクッと震わせた。いつの間にかカズマは眠ってしまっていたのだ。カズマが上を見上げると、深く帽子をかぶった駅長さんらしい人だった。服装といい雰囲気といい、どう見ても駅長さんだった。(もしかしてここ終点!?)カズマはあわててそう思った。けれども電車は動いている。「ガタン、ガタン・・・・・・」そんな電車の音が聞こえる。けれど窓が閉まって外の景色が見えないようになっているので、どこがどこだか分からない。でもさっき乗っていた電車とはなんだか様子が違う。まるで違う電車のようだ。

「す、すみません・・・・・・。」

カズマはそう言った。すると駅長さんはうなずいてどこかへ行ってしまった。顔が見えないせいか、とても不思議な駅長さんに感じてしまった。けれどもうそろそろ駅に着くころだ。きっとアナウンスももうそろそろかかるにきまっている。もしかしたら降り過ごしたのかもしれない。駅長さんに聞けばよかっただろう。タイミングを逃してしまった。

「うぅん、うぅん・・・・・・。」

そんな時、カズマのところに誰かが横に倒れてきた。カズマがあわてて横を見ると、同い年ぐらいの男の子が、カズマによされかかって寝ていた。カズマはあわててその男の子をカズマがいるところとは反対側のほうへ倒した。けれども男の子は起きない。そしてうるさいほどのうなり声だ。この声はなんだかとてもイライラする。一体このこは何なのだろう。カズマは仕方がないので起こすことにした。もしかしたらカズマが駅長さんに起こされたように、この男の子も起こしたほうがいいのかもしれない。

「ねえねえ、起きたほうがいいよ。」

カズマは男の子をそう言い揺すった。

                        つづくshadow

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しあわせゆき №8

「うぅん・・・・・・。」

けれど男の子の起きる気配はない。けれどはっきり言ってカズマは迷惑していた。隣がこんなんだと、なんだか気分がよくない。なので次にカズマは根気よく男の子を揺すってみた。すると男の子はやっと目を覚ました。その目の大きいこと。カズマはびっくりしてしまった。男の子は何も言わず、カズマを見た。あまりの迫力というか、顔なので、カズマは圧倒されてしまった。

「おまえ・・・・・・誰?」

そして男の子はそう言った。カズマにとって、それはこっちのセリフだった。

「カズマ・・・・・・。」

けれど聞かれたのでカズマは答えた。すると男の子はふぅんというような顔をした。そしてさっきの顔よりも優しい顔になった。(一体なんなんだろう・・・・・・)と、カズマは思った。

「どうしておまえ、俺を起こしたんだ?」

男の子は不思議そうにカズマに尋ねた。カズマは一瞬ビグッとしてしまった。とても乗り遅れたらかわいそうだからなんて言えなかった。失礼というか、いけないことをしたというか、なんだか今思うと悪いことをしたようにもなぜか思ってしまったからだ。

「そっか、邪魔だったんだな。」

そして男の子はそうがっかりしたような顔でそう言った。カズマはそれはあまりの誤解というか、誤解ではないのだが・・・・・・それは言い方的に間違っているような気がしたのであわててこう言った。

「違うよ。ただ寝てたから・・・・・・。」

率直な意見だった。(もしかしたら納得してくれないかもしれない)と、カズマは思った。カズマがそう言った後、男の子はなんだか納得したようだった。それはそれで安心したけれど、ある意味単純な男の子だと感じた。

「っていうか、ここどこ?おまえ知ってる?」

男の子はカズマの顔を見て、不思議そうにそう言った。カズマはこの男の子が言った言葉に、びっくりするしかなかった。

                       つづくeye

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しあわせゆき №9

「なあなあ、お前どこゆきに行く気だ?」

男の子はそうカズマに聞いた。カズマは混乱を隠せなかった。そしてカズマはあわてて切符を見た。するとなんとカズマの求めている切符ではない。けれどこの切符、なんだかおかしい・・・・・・「しあわせゆき」となっている。中田駅からしあわせゆきへいくというようなことになっているのだ。これはおかしい。どうやら間違えて切符を買ってしまったらしいとでも言えばいいのだろうか。速くお父さんのところにカズマは行かなくてはならないというのに。

「やっぱおまえもなんだぁ・・・・・・。」

すると男の子がカズマの切符を覗き込むように見た。なんだかとても気になる表情だ。一体どういう意味なのだろう。

「俺もしあわせゆきになってるんだ・・・・・・。」

そして男の子はそう言うと切符をポケットから取り出した。カズマはその切符を除いた。すると高宮駅からしあわせゆきとなっている。カズマと男の子は顔を見合わせて真剣な顔をした。高宮駅なんてカズマの聞いたことのない駅だった。

「どういうことなの?」

「どうやら俺ら、同じところに向かっているらしい。」

「でも僕、しあわせゆきの切符なんて買った覚えないよ。間違えて買ったのかと思ったぐらいだもん。」

「俺だってこんなしあわせゆきだなんて切符、買ったことすら買い方すらしらねえよ。」

カズマと男の子はそう交わすと、自分たち二人はとんでもないことに巻き込まれてしまったことを改めて知った。二人とも顔を見合わせて、何も言えなくなってしまった。

                           つづくticket

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しあわせゆき №10

「そういえば君の名前は?」

カズマはまるでさっきの話題を避けるかのようにそう言った。男の子はいきなり話題が変わったので、なんだか戸惑ったような顔をしたが、こう答えた。

「俺は、シュン。」

元気な声だった。この電車全体に響きわたっているのではないかというぐらいだ。カズマはなんだか恥ずかしくなってしまった。けれどもシュンは全然気にしていないよう。一馬はこれは大変なこと知り合ってしまったと思った。そしてシュンはまたさっきの話に話題を変え始めた。そして、

「もしかしたら、あいつも同じ切符かもしんねえぞ。」

「えっ?」

シュンはそうカズマと交わすと、とある少年を指差した。その少年は静かに本を読んでいた。どうやら横にあるかばんを見ると、塾にでも向かっているようだ。カズマよりも頭がよさそうだった。

「話しかけてみようぜ。」

「えぇ?」

「いいからいいから。」

シュンはカズマとまたそう交わすと、立ち上がった。そして勢いよく少年に近づいた。カズマは仕方ないかのようにシュンの後をついていった。カズマにとって知らない人に話しかけるというものはとてつもなく冒険だった。それもあんな少年だ。体ががっちりしていて、顔が分かりやすく動くシュンに話しかけられたりしたら、きっとおかしいとでも思うだろう。もしかしたら防犯ベルでも鳴らすかもしれない。カズマは防犯ベルごときを怖がっていた。

                           つづくsweat01

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しあわせゆき №11

「なあ、おまえの切符見せてくんない?」

シュンは少年に向かってそう言った。カズマはドキッとしてしまった。まるで脅しのようにカズマには聞こえたからだ。もしかしたら少年は今からおかしいと思って、カズマたちを警戒するかもしれないとも思った。けれども少年は表情を変えることなく冷静に切符入れをポケットから取り出し、切符を出した。やっぱりしあわせせゆきだった。よくみると馬場駅からとなっている。カズマもシュンも、知らない駅だった。

「おまえもかぁ・・・・・・。」

シュンはため息をつきながらそう言った。

「別に僕は・・・・・・。」

少年はそう言った。結構なかわいい声だった。そりゃそうだ。どう見てもこの少年は小学生だ。カズマやシュンとは違って、まだ声変わりもしていない。けれどもこの消極的な態度はなんなのだろう。

「うちに帰れなくなっちまうんだぞ。しあわせゆきだなんて俺らの家と遠いに決まってるじゃんか。」

シュンはまるで何をばかげたことを言っているんだというかのようにそう言った。カズマは何も言わず少年を見ていた。

「僕、帰りたくない。しあわせゆきってことは、幸せなところにいけるんでしょ?」

少年はそう聞いた。カズマとシュンは顔を見合わせてびっくりした。少年の考えだなんて二人には全然思いつかなかったからだ。少年は二人がびっくりしている間に、また本を読み始めた。そういえばしあわせゆきっていうことは、幸せなところかもしれない。それなら、もしかしたらそっちのほうがいいのかもしれない。

                            つづくshine

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しあわせゆき №12

「なんてこと言ってるんだよ!」

すると急にシュンがそう怒鳴った。カズマも少年も、びっくりした。カズマは少年の言った言葉に納得していたせいもあり、驚くのは仕方がないことだった。シュンが怒鳴ったっきり、みんな何も発しなくなってしまった。電車がガタンガタンと揺れて、音が鳴り響いていた。シュンは自分が今日初めてあった人間にとんでもないことを言ってしまったと思ったのか、しゅーんと元気をなくしてしまった。

「ごめん・・・・・・。」

それからシュンは結構たってから言った。そしてそれから一人、いすに座った。カズマと少年は顔を見合わせた。二人はどうすればいいかわからなかった。シュンは二人には少しいらだっているようにも見えたが、そう見えるだけで本当かも分からなかったし、だからといって何をするわけでもなかった。カズマは仕方がないので、何も言わずいすに座った。少年とも、シュンとも、微妙に離れた場所に座った。三人とも、とてもここで座っていることが、心地がよくなかった。

 すると急に、少年がシュンのところに向かった。カズマは少しびっくりしたが、何も言わず少年に注目していた。シュンはカズマよりも少したってから少年の動きに気づき、少年をじっと見た。

「ごめんなさい。」

シュンの目の前で少年は言った。

「悪かったよ。おまえ悪くないよ。ただあたっただけだ。」

シュンはそう答えた。けれどカズマにはどうしてもシュンがすねているようにしか見えなかった。

「幸せ、つかんでみたかっただけなんだ・・・・・・。」

そして少年はそう言った。少年は正直に言っただけだった。きっと。その言葉に、シュンが答えることはなかった――。

                         つづくpunch

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しあわせゆき №13

 それから数分が経った。三人とも何も会話をすることはなかった。そして、ずっと離れた場所で座っていた。カズマはなんだか気まずい何かを感じていたが、シュンはそのことをなんとも思っていないようだった。しかし、なんだかとっても不機嫌。少年はさっきと変わらず、読書をしていた。カズマにはそんな少年がのん気にも見えた。速くしあわせゆきっていうところについて、この場を脱出したかった。

「夢中駅ぃ、夢中駅ぃ。」

すると急にそんなアナウンスが流れた。三人ともはっとしてあたりを見合わせた。するとゆっくりと電車が加速していった。三人とも聞き覚えのない駅だった。電車は、止まった――。

 すると・・・・・・女の子が三人のいる車両に入ってきた。三人とも女の子に注目していた。けれども女の子は気づいていないようだった。女の子はとても暗い顔で、少年の横に座った。少年は少し体を動かし、女の子から少しはなれた。異常なほど女の子が少年に近づいて座っていたのだ。女の子は少年が自分から少しはなれたことも、気づいていないようだった。ずっと下を向いていて、しっかりとは三人には女の子の顔が見えない。けれども服装的にも雰囲気的にも小柄な高校生のような感じに見えた。もっともっとこの場の気まずさは増した。

「クスッ、クスッ・・・・・・。」

急に女の子は鼻をすすり始めた。三人はずっと女の子の方を見ていた。女の子の顔から、小さな水が落ちた。いや、水なんかじゃない。それは涙だった。女の子は泣いていたのだ。三人はびっくりするしかなく、ただボー然と女の子を見ていた。何をどうすればいいのか、三人には分からなかった。だが、一番近くにいた少年はさすが優等生なのか声を掛けた。

「大丈夫ですか?」

少年はそう言い、女の子にハンカチを渡した。女の子は下を向いたままハンカチを受け取った。こんな様子を見ていると、中学生の二人はなんだか情けない。

「どうしたんですか・・・・・・?」

少年はそう言った。すると女の子は少年のほうを見た。口をへの字にして、とても可愛らしい顔だった。とてもひどいことをされるような人ではないことは確かだった。少年は女の子の何か深い意味があることを感じた。

「さっきの質問、気にしないでください。」

少年はそう言った。すると女の子はまた下を向いた。

「エェン、エェン、エン・・・・・・。」

すると急に大泣きをし始めた。これには三人ともびっくり。カズマもシュンも女の子のところに駆け寄って行った。女の子の手はとてもしっかりした握りこぶしとなっていた。三人はそんな女の子を、話しかけることなく見つめていることしかできなかった。あんな泣き崩れている女の子に、話しかける勇気なんてなかった・・・・・・。

                       つづくvirgo

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しあわせゆき №14

 それから数分経っても女の子はずっとずっと泣いていた。そして三人はじっと、女の子の様子を伺っていた。まだ未熟な三人には、どうすればいいのか分からなかった。そんなときだった。駅長さんが車両に入ってきた。

「お客さん、困りますよ。他のお客さんも困っています。」

駅長さんは女の子に近寄り、そう言った。女の子は駅長さんのほうを見た。涙は止まらないようだった。

「大丈夫ですから。大丈夫ですよ・・・・・・。」

すると駅長さんはそう言い、女の子の肩に手を置いた。するとどうだろう。三人はあまりの驚きに目を丸くした。駅長さんの手からなにやら青い光が出ている。女の子はそれに気づいてはいないようだった。けれど女の子はだんだんに涙が出なくなり、落ち着いたようだった。

「大丈夫ですからね。安心して、乗っていてください。」

そして駅長さんは女の子にそう言った。そして女の子の肩から手を放し、違う車両へといってしまった。一体、さっきのはなんだったのだろう・・・・・・?女の子はふと、落ち着いたせいもあったか、周りを見回した。回りは全員男だったし、女の子の方を三人ともしっかり見ていたので、とても驚いたようだった。そして、顔を真っ赤にした。自分の泣き顔をこんな他人に見られたのだ。恥ずかしいという感情があってもおかしくはない。

「ずっと、見てたんですね・・・・・・。」

女の子はボソッとそう言った。三人とも何かいけないことをしたような気がして、女の子から目をそらした。

「べ、別に、いいんですけど・・・・・・注目するに決まってるし・・・・・・。」

女の子は急にそんなふうにぼやぼやといろいろと言い始めた。一応三人は見ていないふりをしていた。まるで女の子が独り言を言っているようだった。すると急に、女の子は立ち上がった。そしてこう言った。

「お騒がせしました。」

しっかりした声だった。これには三人とも女の子の方を見た。可愛らしいしっかりとした顔だった。こんなに謙虚な女の子を、無視するわけにはいかなかった。

「き、気にしないでください。」

「揺れますから。座ってください。」

「気にしてねえよ。」

三人は口々にそう言った。けれど女の子は困っているようだった。申し訳なさそうな顔をしている。

「私、夢の中でも何言ってんだろ・・・・・・。」

女の子はふと、そうぼやいた。

                        つづくpisces

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しあわせゆき №15

「夢の中だって?何ぼやけたこと言ってんだよ。」

シュンは女の子を馬鹿にしたような顔でそう言った。すると女の子はむすっとした顔をしてシュンをにらんだ。シュンの顔が少し引きづった。

「これは夢よ?そっちのほうがおかしい。」

そして女の子はきっぱりと言った。そしてこう続けた。

「私、こんな服持っていないもの。それに、さっき自分の部屋で寝たばかりなの。そして今、この夢の中にいるのよ。」

三人は顔を見合わせた。それから女の子の方を見た。これは三人の思ってもみなかったことだった。けれどカズマは思い出した。カズマはうとうとしてしまい、そして目が覚めたら・・・・・・こんな状況に陥っていたのだ。もしかしたら本当は目が覚めていなくて、これは夢なのかもしれない、とカズマは感じた。

「ねえ、君、どこの駅から乗ってきたの?」

カズマは女の子にそう聞いた。女の子はカズマのほうを見て、こう答えた。

「夢中駅でしょ?けどよく私の使う瀬野駅にそっくりだった。夜中の十二時の電車の上りに乗ったらこうなったのよ。」

夢の中ならありえるような内容だった。カズマはこれは夢だと確信した。けれどもシュンも少年も納得していないような表情で女の子を見ていた。それがカズマにもなんとなく伝わった。でもだからといって女の子が自分の主張に自信をなくしているわけではなかった。

「切符は?切符はどうしたの?」

そしてカズマはまた、女の子に聞いた。すると女の子はポケットをさぐり、切符を取り出した。そこには瀬野駅からしあわせゆきとなっていた。

「確かに夢中駅から乗ったのに・・・・・・。」

女の子は不思議そうにそうつぶやいた。これは一体どういう意味なのか・・・・・・三人にも理由が分からなかった。

「これが夢だったら早く目覚めたいもんだね。」

シュンはそう女の子を馬鹿にしたような言いようでそう言い、いすに座った。そして窓の向こうを眺め始めた。その顔はなんだか、寂しそうな様子でもあった。

                          つづくnight

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しあわせゆき №16

「ぼくにはとっても不思議なことがあるんだ。」

すると急に少年がこんなことを言い始めた。そして本を三人に見せた。

「この本、電車に乗ってからずっと読んでいるんだ。うとうとした覚えもない。もしも途中で僕が寝てしまったのなら、おかしなことがある。この本は夢の中でも現実でもどの文も同じだ。それって、とっても不思議じゃあない?僕はこの本を何回も読んでるから、文をもう暗記してしまってるんだ。」

少年の言ったことは、分からなくもない内容だった。けれどそれが、本当に夢じゃないことを証明するとは、あまりはっきりとは考えられなかった。でもこれで、これが夢なのか夢じゃないのか、少し分かってもきていないのに、分かってきているような感じになってきた。

「夜中の十二時だったんだよね。」

「えっ、えぇ・・・・・・。」

カズマは女の子とそう交わすと、不思議な疑問点がたくさん出てきた。

「こんな夜遅くに子供四人がこんなところにいて、駅長さんがおかしいと感じないのはなぜ?それに僕はとても何時間もこの電車に乗っていたとは思えない。僕が乗ったのは確か七時半ぐらいだったしね。後、十二時に電車が動いてると思う?」

カズマは三人にそう聞いた。三人とも誰も答えなかった。答えなど、三人に分かるはずもなかった。けれども四人は、この電車はおかしいということを、なんとなく感じつつあった。

「隣の車両に、行ってみないか?」

シュンが急に三人のほうを見て、ボソッと言った――。

                        つづくsleepy

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しあわせゆき №17

 四人はそれから、恐る恐る隣の車両へと続く扉へと近づいた。四人とも息をのんで、シュンが扉の取っ手を持った。もしもこれが夢ならば、想像もつかないようなものが待っているだろう。もしもこれが夢じゃなかったら、普通の車両が待っているかもしれない。または現実ではありえないような現実が待っているのかもしれない。

「開けるぞ。」

シュンはまじめな声でそう言った。みんなみんな真剣だった。すると・・・・・・。

「何をやっているんですか!」

あわてて向こうから駅長さんが現れた。シュンはあわてて取っ手から手を放した。

「この先は行ってはいけません。」

そしてあわてて駅長さんは扉の前に立ちはだかると、四人にそう言った。

「どうしてダメなんだよ。」

シュンは当たり前のように反抗した。

「こっちはお客様が座るような場所はありません。業務に関係のある人しか、開けてはいけません。」

すると駅長さんがまじめな顔でそう言った。四人ともあまりにも駅長さんがまじめで、または怖い顔に見えたので、少し反省した。悪いことをしているように思えた。

「いいですか?この車両から移動してはいけません。反対側の車両も、絶対に入ってはいけませんよ。分かりましたね。」

駅長さんはそう続けた。本当にしてはいけないというような感じだった。四人はとてつもなく悪いことをしたような気分だった。駅長さんは四人が反省しているのに気づくと、そうかそうかというような感じで安心して隣の車両へと行ってしまった。

                    つづくban

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しあわせゆき №18

「あの駅長、おかしくありませんか?」

少年は三人のほうを見てそう言った。それは誰もが思っていることだった。

「一回、この切符のしあわせゆきのことを聞いてみたほうがいいんじゃないですか?」

少年はそしてまたこう言った。けれどあの駅長さんなら何か知っているに違いないことは確かだった。けれどももしかしたら自分で買ったのに分からないだなんて・・・・・・などと馬鹿にされる可能性だってあった。なので勇気のいる質問なのは確かだった。

「僕、聞いてきます。このままじゃ、もしかしたら幸せという不幸が待っているかもしれませんし。」

少年はそう言うと、扉にむかって堂々と歩き出した。三人はそんな少年の様子を、じっと見ていた。すると急に、勢いよく扉が開いた。そして駅長さんが姿を現した。

「何をしようとしているんですか?」

駅長さんが少年をにらんでそう言った。少年と駅長さんとの差はわずか五センチほどだった。四人の顔が急に固くなった。

「聞きたいことがあったので、ノックしようとしたんです・・・・・・。」

少年は顔を引きずりながらそう言った。三人はどきどきしながら少年のほうを見ていた。

「なんだね、聞きたいこととは・・・・・・。」

駅長さんはそう言った。少年はごくりとつばを飲んだ。そして駅長さんのほうを見た。駅長さんはじっと、それから何も言わず少年のほうを見ていた。

「しあわせゆきって、どこですか・・・・・・?」

                    つづくsweat01

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しあわせゆき №19

駅長さんはすぐに口を開くことはなかった。そしてじっと、少年のほうをにらんでいた。三人に、少年が震えていることが分かった。まだまだきっと小学生だ。無理もないことだった。それもこんな駅長さんだ。カズマの家の隣の家に住んでいる怖い老人よりも怖い。

「しあわせゆきを、知りたいのかい・・・・・・?」

駅長さんはゆっくりと口をあけてそう言った。少年は顔が固くなっていた。口を開くことも困難だったのか、こくりとうなずいた。

「じゃあ、坊やに教えてあげよう。そこにいる君たちも、聞きたいのならよく聞けばいい。」

駅長さんはそしてそう言った。三人は何も言わず、自然と駅長さんに目がいった。そして四人は、駅長さんをしっかり見た。すると駅長さんはさっきからの怖い顔から、少し安心したような顔になって、こう言った。

「しあわせゆきはその名のとおり幸せなところへと向かう駅だ。この世界には、坊やたちの住んでいる世界のほかにも、さまざまな世界がある。私は、君たちが一番適していると思われる世界に連れて行くことをしている。今回君らを、しあわせゆきに連れて行くことにしたのはこの私だ。あそこは君たちが住むのに適していない。君らは幸せなあの世界に住むべき者たちだ。けれど生活はあまり変わらない。ただ幸せな世界になったということだけだ。」

駅長さんは満足しているようだった。みんなびっくりして頭の中が真っ白になっていた。この電車がむかっているのは、そんな簡単な場所じゃなかったのだ。とてつもなくとんでもない場所だ。ここにいる四人は、幸せな世界の適任者だったのだ。

「世界が違うということは、今までのお父さんやお母さんと姿かたちは同じでも、違う人なの?」

カズマが急にそう言った。駅長さんの顔が、ゆっくりとカズマのほうへと向いた。少し機嫌が悪そうにも見えたが、いつものことのようにも感じられた。カズマは成り行きで言ってしまった言葉だったので、何か悪いことをしてしまったような気がした。

「同じ人間が、何人もいるのと同じことだ。君のお母さんと瓜二つの人間がいるんだよ。見た目も、性格も、何もかも同じ。ただ一つだけ違う。幸せだ。」

駅長さんはそう答えた。なんだか言っていることはあんまりたいしたことでもないのだが、すごく説得力のあるように聞こえた。けれど、カズマは駅長さんの言葉に、何も返事をすることはできなかった。聞きたいことは山ほどあった。なのに何も言えなかった。なぜなのだろうか・・・・・・言っても言っても駅長さんのいいように返事が返ってくるように思えるからだろうか。なぜかカズマには、マイナスに考えることが多くある。しあわせゆきについたら、カズマはマイナスに考えないようになるのだろうか。そこは気になるところであった。

「それでは失礼するよ。もう結構な時間が経っている。一度消灯したいから、その時間に眠るとよい。」

駅長さんはそう言うと、また隣の車両に入っていってしまった。電車の明かりが消灯するだなんて、あまり聞いたことのないことだった。けれどとんでもないところに向かっているのだ。何かいつもと全然違うところがあっても、おかしくなかった。

               つづくflair

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しあわせゆき №20

 それから数分、四人は何も交わすことはなかった。とても不思議な気持ちがした。これからもっと楽しいところに行く――けれどそれだけじゃない。何か、何か・・・・・・。そんな感情を抱いていると、急に明かりが消え、消灯した。四人とも辺りを見回した。本当に明り一つない。駅長さんが寝てていいといっていたのもなんとなく理由がつく。一体これからこの四人はどうなってしまうのだろう。と、女の子がまた泣き出した。声が聞こえる。一体この女の子、どうして泣いているのだろう。きっとこんな列車に乗るような子だ。何かあるのだろう。

「うるせえぞ!何泣いてんだよ!」

すると急にシュンがそう怒鳴った。そしてじだんだをした。女の子の泣き声は急におさまった。けれども泣いていないわけではなかった。三人とも、シュンの声にはビグッとした。

「俺は家に帰りたいんだ!こんなところでこんなことしてる暇はないんだ!」

シュンはやけくそにそう言った。シュンには今、急いでしなければならないことがあった。けれどもこの列車に乗ったせいで、迷惑をかけていた。もう手遅れかもしれないと思いながら、シュンはさっきからずっといらだっていた。シュンには急がなければならない用があった。

「落ち着いて。どうしたの?」

カズマは聞いた。シュンの顔は見えないけれど、少し離れた席に座っているのは分かった。それに表情だって、想像は出来た。今のシュンをこのままにしておいたら、女の子に襲いかかることだってありうるかもしれない。そんなことが起きたら、シュンがどうなるか分からない。

「おまえらなんかに、言えるかよ。」

するとそんな怖い声で、シュンは返事をした。カズマの体にとりはだがたった。この声は怒り狂った人の声。シュンが今、どんな感情にまで陥っているのか、カズマにはなんとなく分かった。

「そ、そう!そういえば二人の名前聞いてなかったよね。僕はカズマだけど、二人は?」

カズマはシュンをほおっておいたほうがいいかとでも判断したようにそう言った。少年と女の子は自分たちのことだということが分かったらしい。すぐに返事が返ってきた。

「タ、タカギです・・・・・・。」

少年はそう言った。どうやらタカギというらしい。

「・・・・・・アユコ。」

涙をこらえながらも、小さい声で女の子はそう言った。どうやらアユコというらしい。

「そっか、よろしくね。」

カズマは笑顔でそう言った。けれどもきっと、みんなカズマの笑顔には気づいていないのだろう。四人とも、今の時間を一緒に乗り越えなくてはならないのだ。どんなことがあっても、四人は一緒に同じところへ行く仲間なのだ。けれど、なぜか不安がある。一体この先、どうなるのだろう・・・・・・。

                       つづくannoy

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しあわせゆき №21

「駅長さんはあんなこと言ってたけど、僕眠れないな。みんなは?」

カズマはそうみんなに問いかけた。今から仲良くしていったほうがいい。こんな電車だ。何が起こったっておかしくはない。とカズマは感じていた。けれどもなかなか三人からの返事はない。やっぱりカズマが考えている仲良くなることは難しいのだろうか?

「アユコさん、どうして泣いてるの?ずっとどうして泣いているの?何か、あるんでしょ?」

カズマの言葉を無視してそんなことを言ったのはタカギだった。

「・・・・・・。」

けれどアユコがそんな簡単に話すわけがなかった。アユコはそのとき、話したら嫌われると思った。そしてまた、自分の罪の重さを感じた。で、泣きたくなった・・・・・・。

「何か話してくれませんか?悲しいじゃないですか。話すだけでいいんですよ。何も気にすることなんてないんです。しあわせゆきを出たら僕ら、他人になってしまうんですし。」

タカギはそしてまたそう言った。カズマよりも年下っぽいタカギのほうがよっぽど大人だった。タカギにはこのままアユコとあやふやに別れるのはよくないと思っていた。この時間で、アユコはどうにか解決できる人間だとタカギは思っていた。けれどもアユコは話す気配はなかった。アユコの表情もろくに見えない。タカギはこれからどうしようか迷っていた。

「僕らは同じ人間だから、同じ場所に行くんです。話していい、人たちだと思いますよ。」

タカギはそしてそう言った。とても説得力があるようにカズマには思えた。けれどもアユコは戸惑っていた。タカギが言っていることは確かかもしれない。けれども、話せばいいとは限らない。アユコは自分のプラスの考えとマイナスの考えが入り混じって、答えを出すことができなかった。そして・・・・・・。

「このままじゃ、幸せな世界で幸せにいられないよね・・・・・・。」

アユコが口を開いた。三人ともアユコの言葉にびっくりした。けれど同情できるような気がした。アユコの、この気持ち・・・・・・。

「私、親友が病気で死んじゃったの。」

アユコがそう言った。すると急に消灯の時間が終わったのか明りがついた。すると三人に、大粒の涙を流しているアユコの姿が見えた。アユコの、思い切った行動だった。アユコは自分の言った言葉が、怖くて怖くてたまらなかった。

                   つづくnewmoon

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しあわせゆき №22

「それからずっと、泣いているの?」

恐る恐るカズマは聞いた。アユコはもう答えるどころではなかった。けれども大きくうなずいた。大粒の涙が、まだまだ余裕かのように流れていく。

「大事な、友達だったんですね・・・・・・。」

タカギが寂しそうな顔でそう言った。余計にアユコの涙の激しさは増した。けれどそのタカギの寂しさは、アユコの同情からくるような寂しさではなかった。タカギにとって自分をかばうかのような言葉だった。けれどもそのことには、三人は気づいてはいなかった。すると急に、シュンが立ち上がった。カズマもタカギも驚いた。そしてシュンは、アユコの目の前に立った。

「人の死をいつまでも悲しんでんじゃねえよ!それが、大事な友達へ見ててもらいたいものなのか?違うだろ!」

シュンは怒鳴った。唇が震えていた。シュンの感情は異常なものだった。シュンはいらだっていた。女子はこんなもんなのかと、あきれていたのもあった。親友が死んだからずっと泣いてるだなんて、シュンには理由にははいらなかった。いつの間にかシュンは、アユコの服を持っていた。

「シュン、やめなよ。女の子だよ。」

カズマはあわててそう言い、シュンの手をアユコの服から離そうとした。けれども離れない。シュンの手は汗だくで、何か不思議なものを感じた。

「女が何だ!」

シュンは怖い顔でカズマをにらみそう言った。

「まだ、話は続いてるんだよ。」

カズマは優しく、しかししっかりした顔でそう言った。カズマがそう言うと、シュンの手は離れた。アユコはシュンが怖かった。絶対に話したらぶたれると感じた。けれどもカズマやタカギがいる。何かあってもきっとこの二人がたすけてくれるだろう。アユコはもう、話を続けるしかなかった。

「私、親友なのに・・・・・・ひどいことをした。病室で「海が見たい」って言っていたのに「無理だよ」って・・・・・・ふざけ半分に言ってた。そしたらその日、死んじゃった。私、親友なのに何もできなかった。悔しいの。悲しいの。どうしててもそれが頭から離れないの・・・・・・。」

アユコは言った。これでいいとも思った。これでいやな女と言われても、まだ引きづってるのかと言われても、アユコはそれでもいいという覚悟だった。だって、仕方がないことだもの。話し終わっても、三人は何も返してこない。アユコはとても不安だった。やっぱり話すべきじゃなかったと後悔した。三人はずっと、何か何を考えているのか分からない表情でアユコを見ている。どうせ、しあわせゆきをでたら三人とも他人。もう何もかもアユコは覚悟の上だった。

「ごめん、怒鳴って・・・・・・。」

すると急にシュンがそう言った。どうやら反省しているようだった。シュンは、取り返しのつかない後悔をよく知っていた。もうどうにもならないことを悩むのは、おかしいことではないと感じ取っていた。それも、自分のことよりももっと重大なことだったので反省する思いが深まった。

「俺、ただいらだってただけ。それだけなんだ。」

シュンはそして恥ずかしそうにそう言った。実を言うと、アユコの泣き顔を見ていると妹の顔が思い出されてすごくイライラしていたのだ。いつもは妹が泣いていると普通になぐさめたり怒ったりもできてすぐ解決するのだが、他人だとそんな簡単にはなぐさめたり怒ることもできないのでイライラがたまらなかった。妹のことを思い出すことなんて余計に今のシュンにはいらだつものだった・・・・・・といっても結局シュンは怒ってしまったのだけれども。

「大変だったでしょう?」

カズマは優しくそう言った。

「大丈夫ですよ。親友が一緒にいてくれるのって、とっても心強かったと思いますよ。」

タカギも優しくそう言った。

「今のおまえ、親友が納得できるようなアユコじゃねえぞぉ?」

シュンも優しくそう言った。アユコは、三人に笑顔を見せた。その笑顔は、三人には想像もできなかったような顔だった。きっとこれが、本当のアユコなのだろう・・・・・・。

「おまえ、すっげえ笑顔じゃん!誰か写真屋でもいねえのぉ?」

シュンがあわててそんなことを言い始めた。子供が写真屋なんて経営しているわけがないのに。その慌てようはあまりにもすごかったので、みんなくすくすと笑ってしまった。

「な、なんなんだよ!もしかして俺で笑ってるわけ!?俺なんかした覚えねぞ!」

シュンはまだ慌てている。今しているっていうのに。アユコは久しぶりに幸せを感じたような気がした。まさかアユコは同情してくれるとは思わなかったのだ。いつも自分の部屋に閉じこもって泣いて、親は「悲しむじゃない!」とか「そんな顔見せちゃいけないだろ!」とか、あまり同情するというか怒っているような感じだったからだ。だから余計にアユコは自分を責め続けていた。自分に同情する人間が現れるだなんて思っても見なかったのだ。

「ケ、ケータイなら僕・・・・・・。」

するとタカギがバッグからケータイを取り出した。どうやら写真が取れるケータイらしい。けれどもシュンはそのケータイを急にじっと見た。何も言わない。それもすごく真剣な顔で。三人はびっくりしてしまった。何かあったのではないかと。またはまた怒り出すのではないかとも思った。三人の心臓がバクバクした。するとシュンが少したってからこう言った。

「ケータイって、何?」

三人には信じられないことだった。シュンは三人が唖然としているのに、まだ気づいてはいないようだった。

                        つづくmobilephone

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しあわせゆき №23

「そ、それのこと?急に動いたりしないだろうなぁ。」

シュンは怪しげにそう言った。まだ三人のびっくりしている様子に気づいてはいないらしい。シュンは一体何者なのだろう。もしかしてとんでもない生活をあまりにもしすぎて、時代の動きに気づいていないのかもしれない。けれど本当は、シュンはそれよりももっとすごい人物だった。

「シュ、シュンってうちでテレビとか見たりしない?みんながケータイもってるのとか、見たことない?ケータイを売ってるお店とか知らない?」

カズマは恐る恐るシュンに聞いた。シュンは一瞬意味の分からないような表情をした。シュンはテレビのことさえ知らなかった。シュンはやっと、三人の不思議そうな様子に気づいた。けれどもだからといってシュンだって不思議だった。見たこともない不思議なものを三人は普通かのように知っているんだから。

「写真が撮れるところで、そんなもん売ってたかなぁ・・・・・・全然気づかなかった。」

シュンは不思議そうにそうつぶやいた。三人はぎょぎょっとした。写真を撮れるところ・・・・・・ケータイは元は電話をするものなんだから、そんなところに売っているはずがない。シュンは三人があまりにも変なので、自分が嫌われたかのように思えた。

「あのぉ、パソコンって知ってますか?」

タカギが急にシュンに言った。シュンはまるで自分が馬鹿にされているように思えたので、いらっとした。けれども知らなかったので、首を振った。

「もしかして、ここは時空間なんじゃないですか・・・・・・?」

タカギは冷静に三人にそう問いかけた。

                      つづくclock

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しあわせゆき №24

「まさかそんなことあるわけないじゃない・・・・・・。」

顔を真っ青にしてアユコは答えた。アユコ少しは何かを感じ取った。本当にこれが夢だったらと感じた。そんなことが真実に起こるなど、とても信じられないことだった。

「シュンさんは平成って言葉を知っていますか・・・・・・カズマさんもアユコさんも。」

タカギはごくりとつばを飲んで三人に聞いた。平成は年号だ。多分知らない人はいないはずだ。タカギの行動は正しかった。タカギは平成生まれで今現在も平成に生きている男だった。

「ぼ、僕は知ってる・・・・・・。」

カズマはタカギにそう答えた。カズマは平成生まれではなかったが、今現在平成の時代を生きているので知っていた。そしてアユコは・・・・・・・。

「平静?穏やかで静かなこと?」

そんな他の意味の言葉が戻ってきた。普通平成を知っていればそんな答えが返ってくることなんてめったにない。

「僕の言っているヘイセイは、年号の平成です・・・・・・。」

タカギはアユコにそう答えた。アユコは急に頭が真っ白になって意味が分からなかった。アユコはなんと昭和生まれの昭和に生きている女だったのだ。アユコは年号だと知って心臓がぞくぞくするような変な感情に襲われた。もしかしたら昔の年号ではないかと感じた。けれどもこのタカギの格好を見たってカズマの格好を見たって、とても江戸時代の人や奈良時代の人には見えなかった。なのでとてもそんな時代の前後の時代を生きているような人には見えなかった。どちらかといえば、昭和を前後していそうな服装だ。そうなると――。

「多分シュンさんは相当昔の人ですよ。」

タカギはシュンに向かってそう言った。シュンはさっきから意味が分からなくて頭がこんがらがっていた。シュンにはタカギが変なことを言っているとしか思えなかった。

「シュンさん、最近何が起こりました?」                 

                                                        つづく mobilephone

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しあわせゆき №25

タカギはそう言った。タカギはけれど、冷静だった。どんな答えが返ってくるのか、タカギは想像が出来なかったので少しはぞくぞくもした。けれどシュンは何も言わない。まるで言う気がないかのようだ。シュンは、何も言わなかった・・・・・・。

「やめよっか、こういうの。」

カズマは言った。こんなことをしてもどうにもなるわけではなかった。これを知ってこれから何に生かせるかも分からない。けれど今、こんなことを話している場合ではなかった。それに、とてもシュンが話すとは思えなかった。あの表情のシュン。シュンにはこの三人に話すことはなかった。話してはいけないような気がして、ならなかった。

「そうだぞ!おまえは探偵か?探偵ごっこって言うんだぜこういうの。」

「ごっことは失礼ですねぇ・・・・・・。」

「おまえ本気でやってたのぉ?」

「探偵ごっこじゃありません。推理してただけです。」

シュンとタカギはそう話す。シュンに笑顔がいつの間にか戻っていた。もしかしたらタカギの推理が終わってほっとしているのかもしれないとカズマは感じてしまった。けれどもシュンは荒れやすい。だから分かりやすかったりもする。もしかしたら簡単にシュンの真実がすぐに分かってしまうかもしれない・・・・・・。

「まだまだ小学生だな、タカギ君は。」

いつの間にかそうやってアユコは笑っていた。アユコはもう、この三人と打ち解けていた。もうこのまま、ずっとこの電車の中で三人といたかった。そんな思いが深くあった。タカギはどうも自分はものすごい推理をしたはずなのに、なぜ自分が今馬鹿にされているのか意味が分からなかった。

                   つづくsecret

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しあわせゆき №26

 それから数分が経って、四人はいつの間にかとても仲良くなっていた。もうこのまま、幸せになれるような気持ちで……。

 けれどもいつからか、アユコの様子がおかしくなっていった。

「そうだ!電車出るとき一緒に出ようぜえ!いちにっさんでさぁ!」

シュンがそう言った。まるで小学生がやることだ。けれどシュンはどう見ても体格もいいし、そんなことをやるような人間には見えな……くもなかいが。

「そんなことして何になるんですか?」

タカギがシュンに向かってそう聞いた。シュンはむすっとしてタカギを見た。この二人はどうやら話が合わないようだ。しかし何とか仲良くやっている。

「タカギはまだまだだなぁ。順番に出るほうが寂しいじゃねえか。」

シュンはそう言った。結構単純な理由だった。タカギはなんだか馬鹿らしいというような表情をしている。まあそう思う人はそう思うだろう。

「まあみんなで出ようよ。タカギ君もきっとそっちのほうが楽しいと思うよ。」

カズマは一応、シュンのほうの味方に付いた。タカギはまあいいかというように肩をおろした。シュンは満面の笑みでタカギを見た。タカギはなんだかイライラしていたようだったけれど、まあタカギのイライラはまだ今日始めてあった子だけれどもいつものことのようにカズマは感じてしまった。

「あっ、アユコは誰と手をつなぎたい?おれか?それともカズマ?まさかタカギ!?」

シュンはアユコにそう聞いた。アユコはパッとシュンのほうに目をむけた。シュンは何も考えずに聞いたことかもしれないけれど、カズマもタカギも、アユコが誰とつなぐのかは気になった。まさか手をわざわざつなぎたい相手がいるのだろうか。けれどアユコの表情にあまり楽しさが伝わってこない。もしかしたら三人ともいやなのかもしれない。

「私、みんなと手をつなげたらいいんだけどな・・・・・・。」

アユコはそう言った。

「よし!じゃあ無理やりにでもつなごうぜ!四人でさぁ。二人もしっかり考えろよー。」

シュンはそう言った。そして手をいろいろと動かしてどうやって手をつなごうか考え始めた。カズマとタカギもなんとなくであるが考え始める。けれどアユコは、考えるつもりはなかった。みんなが自分の言った意味が分かっていないことを感じて・・・・・・。

                          つづくpaper

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しあわせゆき №27

「乗客の皆様にお知らせします・・・・・・。」

すると急にそんなアナウンスが流れた。四人の会話が急に途絶える。こんな電車だ。もしかしたらとんでもないことを放送してくるかもしれない。自然と四人の顔は、とてもまるで放送を敵にするかのような表情をする。

「約後三十分ほどで、出口駅に到着します。お降りの方は、それを目安に降りる準備をしてください。」

放送は終わった――。

「しあわせゆきの間にもまだ下車できるところがあるんだね。」

カズマはびっくりするような顔でそう言った。

「不気味で仕方ねえよ、全く。」

「出口駅の意味を解読したほうがいいと思いますけど・・・・・・。」

シュンとタカギは全然カズマとは考えが違った。そんなことに気づいたカズマは、なんだかとても恥ずかしくなった。

「ごめんね、みんな・・・・・・。」

すると急にアユコがそう言った。三人ははっとしてアユコを見る。アユコは涙をぽろっと見せた。それは一体、どういう意味なのだろう・・・・・・。

「泣くことなんてもうないだろ?」

シュンが不思議そうにそう聞く。けれどアユコは強く否定するかのように勢いよく首を振る。

「涙ふいて。大丈夫?」

カズマは慌ててハンカチを取り出し、アユコに渡した。アユコは申し訳なさそうにハンカチで涙をふいた。しかし、アユコの涙は止まらない。

「もしかして、次の駅はアユコさんのための駅・・・・・・。」

タカギが勘でそう言った。するとアユコは答えなかった。その意味が三人には、分かった――。

                        つづくkaraoke

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しあわせゆき №28

「変なこと言うんじゃねえよ!なあ、アユコ本当のことをしっかり言うんだ!なぁ?」

シュンは慌ててアユコを問いただせた。アユコは何も言わず、ただ出てくる涙をふいているだけだった。アユコは口が震えて、シュンに答えることが出来なかった。きっとみんな分かっているだろうけれど、怖くて怖くて言えれない。アユコは一緒に三人と駅を出て、幸せな生活を送りたかった。みんなでまた楽しく会ったりとかしたかった。なのに、なのに――。

「泣いてたらしっかりお別れできないよ。」

カズマが寂しげにそう言った。アユコは余計に泣いた。泣き止みたくてもアユコはもう、泣き止むことが出来ない。もしかしたら戻ったらまた、前と同じようになってしまうかもしれない。

「ばか。」

するとシュンがカズマの頭を叩いた。カズマはびっくりしてしまった。けれど自分が言ったことは、少し間違っていたことに気づいた。

「けれど、アユコさんはもともとしあわせゆきじゃなかったってことですか?」

タカギが冷静にそう言った。そういえばしっかりとアユコにどこに行くのか聞いた覚えはない。するとアユコは首を振った。と、いうことはしあわせゆきだったということだろうか?

「泣き終えてから一回切符を見たの。そしたら・・・・・・いつの間にか変わってたの。」

アユコは一生懸命泣きながらもそう言った。切符の行き先が変わっていた・・・・・・それは本当は夢の中だからありえることなのか、それとも現実でもありえることなのか――。

 すると急に、前の車両へのドアが開いた――。

                       つづくticket

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しあわせゆき №29

「アユコさん、降りますからね。準備をして置いてくださいよ?」

駅長がそして車両に入ってきた。駅長は平然としていた。アユコが泣いていたことも駅長はしっかりと知っていた。しかし平然とそこに立っていた。

「アユコの切符がすりかえられてるんだ。アユコはしあわせゆきの切符を持ってたんだ。駅長なら知ってるだろ?」

シュンはそう駅長に尋ねた。こんな駅長だ。四人が持っていた切符のことぐらい、知っていてもおかしくはない。

「すりかえられてる?それなら犯人は誰なんですか?そんなわけないでしょう。切符が変わっただけですよ。」

駅長は普通にそう答えた。切符が変わるわけがない。けれど、駅長は平然とそう言う。この駅長にとってはそんなのおかしくもないこと、とでもいうような感じだ。

「どうして変わるんだよ・・・・・・。」

シュンはまたそう駅長に尋ねた。シュンには納得が出来なかった。だってアユコが出口駅で降りる理由なんてないのだから。それはカズマもタカギも同意見だった。けれど駅長は急にくすくすと笑い始めた。そして段々に大笑いし始めた。三人には不気味でたまらなかった。

「それはしあわせゆきにいく資格がなくなったからだよ。君らには分からないのかい?」

駅長は笑い狂いながらもそう言った。まるで三人を馬鹿にしているかのようだった。ここに乗っている三人はしあわせゆきにいくべき人間・・・・・・しあわせゆきにいく資格がなくなったら――。

                      つづくdown

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しあわせゆき №30

「なんだよ資格がないってさぁ!資格があるから乗ってんだろうが!」

シュンはそういい怒鳴り散らした。すると駅長さんは不気味に微笑んだ。ガタンガタンと相変わらず電車は動いていく。出口駅へと――さっきとなんも変わらず。さっきと四人は違うのに。電車だけは何事もなく走っている。

「君らはどうしてアユコさんがここに乗っているのか分かっていない。」

そして駅長さんがそう言った。四人ともそんなのしあわせゆきに着いて幸せになるためだと当たり前のように思った。それがこの電車に乗る理由なんだから――。

「アユコさんは、もう不幸で孤独ではない。」

駅長さんはそう言った。四人ははっとした。それはしあわせゆきに行く理由がなくなったということではないのだろうか。しあわせゆきとは、多分不幸なかわいそうな人間が幸せになるためにある場所・・・・・・そんなところに自分の悩みを克服して楽しそうなアユコは――行ってはいけない。アユコはもう、しあわせゆきにまで行かなくても大丈夫だということだ。いや、そうなってしまうのだ。

「そんなの自分勝手すぎる!急に行き場所を変えられては困ると思いますが。」

タカギは慌てて反論した。タカギだってシュンと同様、納得がいかなかった。

「アユコさんがここにいる理由を教えてあげましょうか・・・・・・。」

駅長さんがにったりといった。四人ともごくりとつばを飲んだ。アユコはただしあわせゆきに行くためにここにいるのではないのだろうか・・・・・・?アユコ自信も、自分が他の三人とは違うということが判明してとてもぞくぞくしている。もしかしたら自分はとんでもない目にあうのかもしれないのだ。この電車の中で、何が起こるかなんて分からない。

「それはですね・・・・・・。」

駅長さんの口が動いた。四人は心臓がバクバクして、その次の言葉を聞いていいものなのか不安を抱いた。けれども駅長さんの口はどんどん話し始めた。

「アユコさんはここで幸せに解決するためにここにいる。アユコさんはもともとしあわせゆきに行くのを目的にここにいるのではないのですよ。この電車の中で、幸せになって、出口駅で降りていくのが、もうすでにアユコさんの決まっていた道なのです・・・・・・。」

               つづくnight

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しあわせゆき №31

駅長さんはそう言った。みんな唖然として、返す言葉がなかった。駅長さんは四人をそれぞれ見ると、それから何も言わずに隣の車両へと行ってしまった。四人ともびっくりしてしまった。何がなんだか、分からなくなってしまった――。

 それから、四人はそれぞれ別々に離れたところに座っていた。みんな暗い気持ちで、これからどうすればいいのか全然思いつかない様子だった。もしかしたらこの中でアユコ以外にもしあわせゆきに行けれない人が出てくるんじゃないかという不安や、一人ぼっちになってしまうんじゃないかという不安が、三人にはあった。そしてアユコには、今までの生活に戻らなければならないという複雑な思いと、もう二度と三人に会えないんじゃないかという不安が、心の中をよぎっていた。

 「三人とも、来い。」

すると急に、シュンが立ち上がった。そしてなぜか急に三人を集めた。なんとシュンにはとある考えが思いついたのだ。三人はもうどうしようもないような状況だったため、シュンのところに集まった。三人に見えるシュンの表情には、とても不安や心配そうな様子は見られなかった。でもシュンはマイナスの顔が出ない性格。一番四人の中で追い詰められていたのは、多分シュンではないのだろうか・・・・・・。

「みんなで、出口駅で降りよう。」

するとシュンはまじめな顔でそう言った。三人はびっくりしてつばをごくりと飲んだ。シュンは一体、なんてことを考えているのだろうというような表情で。三人はそうやってびっくりしたけれど、シュンは真剣だった。それが三人にも分かったので、三人は馬鹿にすることなくびっくりしながらも真剣に聞いた。

「俺はこのままみんなとバラバラに別れるのはいやだ。これで一人になったりすんのは真っ平だ。いっそのこと、みんなで降りよう。切符なんて関係ねぇ。こんな切符、おれらが買ったもんじゃねえもん。この様子だと、アユコは降りざる終えなくなる。だから俺らも一緒に出よう。こんなのひでぇよ。」

シュンはそう言った。シュンらしい答えだった。そしてシュンのくだした決断だった。シュンは別れが嫌いだった。それも今回のアユコとの別れ、どうもシュンには納得がいかなかった。シュンは別にしあわせゆきで降りたいわけではなかった。なので出口駅で降りてもかまわなかった。速くこの電車から出たいという気持ちもあったが、今はそんな気持ちでそんなことを言っているわけではなかった。

「僕はそれでもかまいません。もしも僕らが出口駅で降りて、今後どうなるかは分かりませんが、今後どうなるか分からないのはしあわせゆきでだって同じです。」

タカギはそう言った。タカギはシュンの意見に賛成したのだ。シュンの考えは異常なほど大胆すぎることは、タカギは承知の上だった。もっといい方法だってあるに決まっていることだって。しかし、この四人で行う行動だったら――これだと思った。

             つづくpencil

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しあわせゆき №32

「カズマは?おまえはどうだ?」

するとシュンがカズマにそう聞いた。カズマは急な問いにどうすればいいのか分からなかった。これから悪いようなことをする。そしてその後どうなるのかも分からない。このままこの電車に乗っていたほうが安全なんも確か。でも――カズマには何が正しいことなのか分からなかった。

「カズマ?」

シュンが聞き返す。カズマは速く返事をしなければならないとあせった。

「うん、一緒にやるよ。」

カズマはそう答えた。するとシュンはにっこりした。カズマはふとあることを思い出したのだ。今自分が、この世に生きていたいのかどうかを――カズマは別にそこまで生きていたいわけではなかった。けれどわざわざ死ぬ気もなかった。だからこの機会に、生きるか死ぬかの賭けをしても、何の緊張もなかった。どっちに転んでも、別によかった。こんな世の中に生きていくのと、こんな世の中を去っていくの――。

「みんな、本当に一緒に降りてくれるの・・・・・・?」

するとアユコが不安そうな表情でそう言った。三人は何事もなくこくりとうなずいた。アユコはするとほっとしたように安心した顔になった。

「じゃあ、みんなで降りようぜ!」

シュンが笑顔でそう言った。三人は笑顔で返した。

「出口駅ぃ、出口駅ぃ・・・・・・出口駅に到着します。お降り方は降りる準備をしてください。」

そんなアナウ