前の席の飯井口君 ②
「でも同じになれるといいよねぇ!」
「う、うん・・・・・・。」
倉岡桜はかおりの呼びかけに「うん」と言ってしまったが、少しかおりのせいでそんな気がしなくなってしまっていた。
「何が同じチームだ!」
すると急にかおりと倉岡桜のところにかおりちゃんが現れた。どうやらまた怒っているらしい。
「ドッジボールっていうのは同じチームになって「やったー」って喜ぶもんじゃないの!分かるぅ?勝って「やったー」って喜ぶもんでしょ!全くそういう考えだから困る。」
かおりちゃんはそうドッジボールを語った。どうやら同じチームになって喜ぼうとしている二人に納得がいかないらしい。けれどもそんなことの何が悪いのか分からないので二人はキョトーン。
「な、何よその顔!じいちゃんだって同じこと言ってたわよ!」
二人があまりにも馬鹿にしたような顔をしているように見えたのか、かおりちゃんは慌ててそう言った。しかし、かおりちゃんのおじいちゃんはあんまり納得する理由にはならないような感じがする。かおりちゃんとかおりちゃんのおじいちゃんが同じ意見を言っていてもおかしくはないし――それで納得していいものか二人にはよく分からなかった。
そしてチームわけはじゃんけんで負けたか勝ったかで分けた。かおりちゃんは倉岡桜や飯井口登馬とかと、かおりは木林正助とかと同じチームだった。
「桜ちゃんじゃんけんする前に「かおりちゃんとなりますように」って祈ってたもんねぇ。すごいよねえ、神様って。」
かおりが倉岡桜にそう話しかけた。倉岡桜はビグッとしてしまった。倉岡桜はかおりではなく、かおりちゃんとなった、ということは・・・・・・神様はかおりとかおりちゃんを間違えたのだ。神様も困ったもんだ。それともこれはまぐれか、または倉岡桜の祈り間違えか――。
「ガッビーン!」
倉岡桜はそう言いもがいた。
ということでドッジボール開始。
「桜ちゃん、ごめん・・・・・・。」
ボールは始めかおりちゃんたちのボールになって、それを始めにかおりがとった。そしてその始めのかおりの言葉がこれだとすると・・・・・・。
「ガッビーン!」
倉岡桜は狙われ、あてられた・・・・・・友達として少し切ない倉岡桜。それもボールは思い切りだった。かおりのボールはだてに遅い速さではない。普通の同級生の男子が投げてもおかしくないような速さだ。
「ナイス長野!」
木林正助が大声でそう言った。かおりは笑顔で木林正助に返した。
「けっ、友達あててそんなに笑顔でよくいられるよなぁ。」
するとかおりの相手チームの内野からそんな声が聞こえた。それはかおりちゃんの声だった。二人がかおりちゃんを見るとなんだかいやいやしい顔でかおりちゃんが二人を見ていた。
「おまえいちいちうるせえよ!さっきまであんなこと語ってたくせに調子のいいやつ!おまえなんてかおりにあてられちまうぞぉ!」
木林正助がそう大声で言った。木林正助が少しカチンとくる言葉だったらしい。けれどこれもまたかおりちゃんがカチンと来てかおりちゃんはこう言った。
「何よ!もとから外野であてられることのないあんたなんかに言われたくないね!まさかあてられるのが怖いのかなぁ?」
かおりちゃんのにんまりとした顔。そう、木林正助は外野の中心人物になっていたのだ。もともと木林正助だってすごく上手い。あんなことを言われてまたいらっとしてしまった。
「おまえみたいなやつあてられちまう!」
「はぁ?なんでよ!」
そしてこの二人はずっとそんなことで大声でけんかしていた。この二人はまだまだ仲良しにはなれそうにないようだ。
そして結局、最終的にはかおり同士が内野に残ってしまった。さすが似たもの同士なのか運動神経はレベルが同じらしい。投げる速さも互角といってもおかしくはないだろう。とることもよけることも互角だと思われる。性格だけが違うのがとても不思議なぐらいである。そしてかおりちゃんにボールが回った。
「絶対あててやる!あんたなんてちょろいもんよ!」
「えぇ!」
という会話の後に、かおりちゃんは投げた。するととっさにかおりはよけた。すると・・・・・・。
「うわぁ。」
そんな声が・・・・・・。
「い、飯井口君!」
かおりは慌てて叫んだ。なんとかおりちゃんの投げたボールが飯井口君の顔面に当たったのだ。それはまた痛い。
「あ~、味方なんてあててやんのぉ。」
木林正助がにんまりとかおりちゃんにそう言った。
「バカ飯井口!しっかりボール見てろ!」
「あははははぁ、僕鈍いからなぁ。」
「全くしっかりやってろ!」
そして飯井口登馬はかおりちゃんに怒られ、かおりちゃんは飯井口登馬をしかった。
結局このドッジボールは決着がつかずに同点ということで終わってしまった――。
そしてその日の帰り道。
「何だよ飯井口の野郎!男のくせにろくなもんじゃない!」
かおりちゃんはかおりと歩きながらそうぐじゅぐじゅと怒っていた。
「私、悪いことしちゃったなぁ・・・・・・飯井口君に。」
そしてかおりちゃんの横で歩いているかおりは反省をしていた。
「あっちが悪いんだろうが。かばうな。」
「でも・・・・・・。」
そしてそう交わすと急にかおりちゃんの足が止まった。かおりもつられて立ち止まる。そしてかおりちゃんはボー然と目の前にある何かを見ていた。かおりがそのかおりちゃんの見ている先を見ると・・・・・・犬がいた。
「やべぇ・・・・・・。」
かおりちゃんが青ざめた顔でそう言った。
「どうしたの?」
何も知らないかおりは不思議そうにかおりちゃんに聞く。
「あの犬、今日の朝、石ぶつけてさぁ・・・・・・。」
かおりちゃんはそう答えた。そしてやっとかおりも意味が分かった。そしてかおりちゃんと同じく青ざめた。どうやら野良犬らしく首輪をつけていない。また、とても怖そうな顔をしている――。
「どうする、の?」
かおりはかおりちゃんに恐る恐る聞いた。
「馬鹿は何も分かんないんだな。」
かおりちゃんがそうかおりを馬鹿にした。
「えっ?」
あまり意味を理解していないかおりは聞き返した。そして、
「逃げるに決まってるだろうが!」
かおりちゃんはそう言い走り出した。そしてかおりも慌てて走り出した。
「こっちだかおり!」
かおりちゃんがどんどんと細い道を誘導していく。まだこの町に来てから一ヶ月も経っていないのにかおりちゃんはなぜかこの町の道に詳しいらしく、かおりが知らない道をどんどんと走っていく。
「こっちにでっかい桜の木があるんだ。そこに登れば安心だ。」
かおりちゃんがかおりにそう言った。二人とも息をはあはあしながら走っていく。
「私、木登りなんてしたことないよぉ。」
するとかおりはそう泣き言を言った。
「はぁ?バカじゃないの!!」
かおりちゃんはあきれてそう怒鳴った。と、いうことは・・・・・・もう最低でもかおりは助からないというのだろうか!?
「仕方ないなぁ・・・・・・。」
かおりちゃんはそうボソッと言った。そして・・・・・・。
「誰か助けてぇ!」
と、叫んだ。これで二人とも助かる可能性は高いが・・・・・・いや、低いと思われる。
そんな時目の前に誰かが!
「あっちいけこの野良犬がぁ!」
そしてその子はそう怒鳴り、犬はしぶしぶというように逃げていった。
「・・・・・・。」
二人ともボー然として言葉がなかった。いや、出なかった。 「大丈夫か?気をつけろよ?よくあの犬うろうろしてるから。」 その子はそう言った。二人は目を真ん丸くした顔でその子を見ていた。するとその子はなんだか二人が不気味に見えたのか、変な顔をした。 「な、なんだよおまえら。変なやつ。ん、んじゃあ。」 そしてその子は不思議な顔で行ってしまった。 「うそ・・・・・・。」 「マジかよ・・・・・・。」 二人ともびっくりしすぎて体が動かなかった。だってその子は――飯井口登馬だったのだから。二人は、あのただ笑っているようなあの男に、助けられたのだ。それもまるで別人かのような飯井口登馬に・・・・・・。

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