セメント先生 ③
そしてその夜、食事中にかおりはお母さんに最近の二人のことを話した。
「そう、それは困ったいたずらねえ・・・・・・まあ先生もすごいけれど。」
するとかおりちゃんのお母さんは困ったようにそう言った。
「大丈夫かなあ・・・・・・。」
ますますかおりの不安は募る。とうとう箸まで止まってしまった。
「まあ、時が解決するんじゃないかしら。」
かおりがあまりにも深刻な表情をしていると、かおりのお母さんはそうにっこり笑って言った。しかし、かおりはそんな気軽なものではなかった。けれどお母さんは、なんだかあまり心配ではなさそうだった。それがかおりにはどうも納得ができなかった。
そんなとき、電話が鳴った。
「私、でるね。」
「えぇ・・・・・・。」
かおりはお母さんとそう交わすと、いすからおり、電話に出た。
すると・・・・・・。
「てめえ!おれの妹と同姓同名にしたかおりだな!」
急にそんな怒鳴った声が飛び交った。
「ご、ごめんなさい!同じで!!」
かおりは慌ててそう謝った。どうやらかおりちゃんのお兄ちゃんらしい。久しぶりの声に何か懐かしさを感じてしまうかおり。
「そんなこと言ってる場合じゃねえ!かおりが帰ってこないんだ!!」
そしてさっきと同じ調子でかおりちゃんのお兄ちゃんはそう言った。けれどかおりの顔は一変した。なんとかおりちゃんが行方不明というような状態のようだったからだ。かおりのちょっとしたいやな予感は、的中したのだ。あまりのことにかおりは言葉がない。
「おまえ!かおりがいるとこ知ってんのか!知らねえのか!」
かおりちゃんのお兄ちゃんは怒鳴る。さっきからずっと怒鳴っているようにも思える。
「最近、森丘森に行ってるみたいだけど・・・・・・。」
恐る恐るかおりは言った。あまりのかおりちゃんのお兄ちゃんの勢いに負けてしまったとでもいえよう。かおりちゃんのお兄ちゃんはかおりちゃん以上だ。けれど一番このかおりの言葉に反応したのはかおりのお母さんだった。
「かおり!あそこは立ち入り禁止なのよ!」
かおりも、電話の奥から聞こえたかおりちゃんのお兄ちゃんも、その言葉にはぞっとした。かおりちゃんは一体、大丈夫なのだろうか・・・・・!!
で、そのころかおりちゃんは木林正助と――。
「何で無茶したわけ?ありえない。」
「そう言うなよ。」
まだ森丘森にいた。・・・・・・迷子になっていた。それも木林正助は根っこで足を滑らせてまともに歩くことができない。なんと絶望的な状況。そしてとうとう夜になってしまったというわけだ。
「ワオー」
急に犬の鳴き声も聞こえた。二人はぞっとした。こんなところで犬に追い掛け回されたら元も子もない。それだけではない。二人は・・・・・・怖かった。こんなところじゃ何が起こるか分からない。二人は相当森丘森の奥まできていた。
「私、夜の道はわかんないんだよ。ここは一体どこなんだ?」
あきれたようにかおりちゃんは言った。本当は腕はとりはだがたち、足はガクガクだった。
「おれ、おまえと一緒に一夜を過ごすのだなんて真っ平だからな!!」
実は木林正助も腰が抜けていたところがあった。二人ともとうとう、座り込んでしまった。どんな場所だなんて関係ない。二人は森丘森の中の土の上を勢いよく座り込んだ。
「あんたとこれで死んだら、一生あんたのこと呪うんだから!」
「おまえだろ!ここなら見つからないって言ったの!」
「立ち入り禁止でもかまわないよ別にみたいなこといってどんどん入ったのはあんたじゃない!」
「でもこのままじゃあなあ、本当に見つからないぞ!!」
そんな口論が終わると、二人に沈黙が残った。もしかしたら一生このままなんじゃないかという思いもした。今日は森の中でろくに星一つも見えない。ましてや空さえ見えなかった。
「ワオー」
そしてまた、そんな犬の鳴き声。
「かおり、さっきより近くなってないか?」
木林正助が恐る恐るそう言った。
「こっちに来てる・・・・・・。」
青ざめた顔でかおりちゃんはそう言った。
「ちょっと見てくるよ。木林が見える程度に見てくるだけだからさ。」
かおりちゃんはそう言うと、恐る恐る立ち上がり、犬の鳴き声が聞こえるほうに歩き出した。
「あっ!!」
そしてかおりちゃんは大声でそう言った。
「どうしたかおり!」
慌てて木林正助がそう言う。
「ワオー」
そしてそんな犬の鳴き声。そして犬はかおりちゃんに襲い掛かった。
「かおり!!」
それを目にした木林正助は慌てて立ち上がった。と、同時に・・・・・・。
「あなたたち!そこで何をやっているの!!」
そんな聞き慣れた声。その声と犬の正体は、なんとセメント先生とロサンゼルスだった。けれどセメント先生にはとっても険悪とした顔があった。そして夜でこんなに暗いというのに、セメント先生のめがねは光っていた。
「ここは立ち入り禁止です!何で入ってるんですか!!あなたたち、もう小学四年生なんですよ!!」
いつも通り説教をする先生。けれど二人は思わぬ出来事にポカーンとしてしまった。まさかこんな絶体絶命の危機にいつもは敵だと見ているセメント先生とロサンゼルスが現れるのだから。
「本当にに分かってるんですか!」
セメント先生はそう言うと、かおりちゃんの肩を持った。木林正助は近くにいなかったから、近くにいたかおりちゃんを。かおりちゃんはしっかりと強く、心配していた表情のセメント先生の顔をしっかりと見た。セメント先生に肩を持たれている感触が、どうも心臓をどきどきさせた。そして木林正助もあまりの行動に言葉すらなかった。
「ごめんなさい・・・・・・。」
かおりちゃんは、力が抜けたかのような声でそう言った。
「木林君、けがしているようね。私が背負うわ。」
セメント先生は木林正助に目をむけるとそう言い、近づいて背負った。
「ロサンゼルス、行くよ。」
「ワン!」
そしてロサンゼルスにそう声を掛けると、セメント先生はかおりちゃんに目をむけた。
「かおりさん。」
そして声を掛け、手を差し伸べた。かおりちゃんはそれに答え、一緒に歩き出した。かおりちゃんが女の人と手をつなぐのは、久しぶりのことだった。
そして次の日――。
「かおりちゃん・・・・・・。」
「ふんっ!別に私はこの顔でも気にしない!」
教室でかおりがかおりちゃんと会うと、かおりちゃんはとんでもない顔をしていた。どうやら昨日、コテンパンにおじいちゃんにしかられたと見える。
「昨日、どうしたの?」
心配そうにかおりは聞いた。
「別に。」
けれどかおりちゃんの返事はそっけなかった。
「・・・・・・?」
意味が分からずかおりはポカーンとかおりちゃんを見る。
「ロサンゼルスに襲われたの。それだけ。」
あまりにかおりがポカーンとしていたので、慌てたようにかおりちゃんはそう言った。しかし、少し顔を赤くしていた。けれどそれにはかおりは気づかなかった。
「えぇ!ロサンゼルスに!?な、何が!!」
あまりの恐怖にかおりの顔は一変した。一体何があったのか、かおりには予測不可能な世界へと変わってしまったのだ。かおりの心配はよりいっそう深まった。しかし、かおりちゃんは昨日あった出来事を全然といっていいほど話さなかった。恥ずかしかったのか、それとも言う価値のないことだったのか――、理由ははっきり、分からずじまいだ。
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