38 分からなくなる・・・
川村が寝てから、西嶋はメールをしていた。村岡にだ。西嶋は、川村だけを見ていてもあまり川村のことが分からなかった。悪いやつではなさそうだったが、マザコンなのかもしれないし、エロい本を普通に読むやつなのかもしれない。西嶋には、どうも川村の人物像がしっかりとしていなかった。「まだよく川村のこと分かんなくて、仲良くできてるように思えないときがあるんだけどさ・・・川村って怒ると泣くやつ?俺、怒りっぽいからさぁ」と、西嶋は送った。すると一分も経たないうちに返信が来た。「俺は泣いてるとこ見たことない。泣かない子だな、あいつは。なんかぶつけたりとんでもない転びかたしても大丈夫って笑ってるやつ。下手すると大怪我でもほっといちゃうな、そういう勢いで。」するとそんな予想外の返事。「大丈夫」って言っている川村の姿は想像が出来るが、泣きそうな姿もものすごくある。けれど確かに、おどおどビクビクする姿を見たことがあっても、泣きそうな姿は一度も見たことがなかった。今日が、初めてだった・・・・・・。そしてその後すぐにメールが来た。村岡だ。まだ西嶋が返信もしていないのに。それでも早過ぎる。「打つの面倒だからしゃべらない?」と、なっていた。西嶋は快くオーケーした。
「もしもし?わりぃな、おれがめんどくさがりやなばっかりに。」
村岡はいつものような様子で西嶋のところにかけてきた。
「い、いや、こっちのためにやってくれてて迷惑かけてる。」
西嶋はそう言いながら部屋を出る。
「あんまり上手くやってないんだぁ。」
にんまりしたような表情が想像できるような口調で村岡は言った。西嶋はついつい図星で声が詰まる。そして寮の前の森の入り口にしゃがんだ。
「別に仲が悪いわけじゃねえよ・・・・・・でもなんか、距離を感じる。」
西嶋は暗い表情でそう言った。
「気のせいじゃね?」
すんなりと村岡は返答。
「な、なんとなくなんだけど、分かるんだよ!絶対なんか、どっかで距離感感じる。」
西嶋が慌ててそう言う。村岡には、全くそんな西嶋のことが理解できなかった。
「村岡ってさ、川村を嫌ってるやつと友達なんだろ?それでも友達でいてくれるから、川村は慕ってくれるんだろ?」
西嶋の手に、グッと力がはいる。自分にはない何かを、村岡は持っている。自分にはないものを、村岡は持っている・・・・・・。
「川村、そんなこと言ってたのぉ?マジびっくりぃ。」
ふざけたような口調で村岡は言った。(おれ、そんなこと知らねえしぃ。さすが西嶋。西嶋だから、距離感を感じてる。普通のやつなら感じないぐらい。すげーなー)村岡は知らなかった。自分がどうして川村と親しくなっていっているのか。今日、初めて知った。自分は、確かに川村が嫌いな人間と友達になっている。そんなことで、川村は心を開いてくれていたのか。予想外のことだった。
「で、ど、どうなんだ・・・・・・?」
深刻そうに西嶋は聞く。(川村、普通のやつにそんなこと言うような奴じゃねえよ)と、村岡は思う。(あいつは、そういう面倒な友人関係に突っ込むやつじゃねえし、ましては自分が嫌われていると認めるような発言なんて――)村岡には、聞いたことがないことだった。
「それはあっていると言えばあってるし、間違ってるといえば間違ってる。」
村岡はきっぱりとそう言った。
「ど、どういうことだよ。」
もう西嶋には何がなんだか分からない。
「お互い様なんだよ、それ。川村の親友、おれが嫌いでさ、おれをいじめてたんだよねぇ。そいでもって、川村に相談とかしたりしててさぁ。一番支えてくれた奴なんだ。それも、あいつはその親友に一度もそういう相談内容とかちくってる様子一切なかったし。あいつはさ、一人ぼっちのやつに手を差し伸べるやつだから。おれは別に川村が嫌いじゃないし。それだけ。」
村岡もまた、あまり人には言わないような内容を西嶋に言ったような気がした。しかし、川村が認めた男だ。言っても大丈夫なような気がした。
「そ、そっか・・・・・・。」
しかしそんな村岡の気持ちなど知るわけもなく、西嶋はそう言った。なんだかあまりにも想像が出来ない川村に、戸惑っていた。そしてなんだか、寂しさもあった。
「あいつ、あぁ見えて結構強いやつだったりするのさ。」
気軽な感じに村岡は言う。
「・・・・・・。」
しかし、西嶋はそうはいかなかった。
「一人で何でも抱え込んじゃうのさ・・・・・・それじゃあ実際はいけないのかもしれないけどさ。」
そして次に村岡は笑いながら。
「・・・・・・。」
しかし、西嶋には笑えることではなかった。西嶋は、無表情で村岡の話を聞いていた。自分が今、これでいいのか分からなくなっていた。これからどうすればいいのか、全く見当もついていない自分がいた。そして、村岡どころではない自分も。
「冗談だよ。そこまで川村を偉大な人とは思ってないさ。でもそんなこと思ってるだなんて初耳だった。西嶋だから、きっと話せたんだろうな。」
優しい声で、村岡は言った。その時やっと、西嶋はハッとした。そして、自分が川村に近づいていることに気づいた。もしも、川村が自分に嫌われてたと思っていたなら、おれに言ったらややこしいことになると思っていたなら、心を開くべき人じゃないと思っていたなら――、きっと川村は言ってはこなかったに違いない。
「他になんか用ある?」
「い、いや、別に・・・・・・ごめん、急にこんなこと。」
「いいよいいよ、おれ暇人だから。」
そう村岡は気軽に西嶋と話したけれど、心の中は西嶋と同様、考えることで山ほど埋まっていた。川村とは前からの友達だったけれど、自分の気持ちを明らかにしていてばかりで川村の気持ちはあまり聞いたことがなかった。何かあったときには川村から声をかけてきてくれたし、お人よしな性格のところもあるからろくに愚痴を表に出すこともない。だから心を開きやすかったけれど、逆に開いてあげることができなかった。さりげなく聞いたことが前にあったが、そんなことではにごられてしまった。「大丈夫だよ」、きっと川村はそう笑顔で言うのだろう。(川村、おれみたいに泣きながら頼ってこいよ・・・・・・)、村岡はふと思うのだった。中学時代を思い出しながら――。
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