「それからずっと、泣いているの?」
恐る恐るカズマは聞いた。アユコはもう答えるどころではなかった。けれども大きくうなずいた。大粒の涙が、まだまだ余裕かのように流れていく。
「大事な、友達だったんですね・・・・・・。」
タカギが寂しそうな顔でそう言った。余計にアユコの涙の激しさは増した。けれどそのタカギの寂しさは、アユコの同情からくるような寂しさではなかった。タカギにとって自分をかばうかのような言葉だった。けれどもそのことには、三人は気づいてはいなかった。すると急に、シュンが立ち上がった。カズマもタカギも驚いた。そしてシュンは、アユコの目の前に立った。
「人の死をいつまでも悲しんでんじゃねえよ!それが、大事な友達へ見ててもらいたいものなのか?違うだろ!」
シュンは怒鳴った。唇が震えていた。シュンの感情は異常なものだった。シュンはいらだっていた。女子はこんなもんなのかと、あきれていたのもあった。親友が死んだからずっと泣いてるだなんて、シュンには理由にははいらなかった。いつの間にかシュンは、アユコの服を持っていた。
「シュン、やめなよ。女の子だよ。」
カズマはあわててそう言い、シュンの手をアユコの服から離そうとした。けれども離れない。シュンの手は汗だくで、何か不思議なものを感じた。
「女が何だ!」
シュンは怖い顔でカズマをにらみそう言った。
「まだ、話は続いてるんだよ。」
カズマは優しく、しかししっかりした顔でそう言った。カズマがそう言うと、シュンの手は離れた。アユコはシュンが怖かった。絶対に話したらぶたれると感じた。けれどもカズマやタカギがいる。何かあってもきっとこの二人がたすけてくれるだろう。アユコはもう、話を続けるしかなかった。
「私、親友なのに・・・・・・ひどいことをした。病室で「海が見たい」って言っていたのに「無理だよ」って・・・・・・ふざけ半分に言ってた。そしたらその日、死んじゃった。私、親友なのに何もできなかった。悔しいの。悲しいの。どうしててもそれが頭から離れないの・・・・・・。」
アユコは言った。これでいいとも思った。これでいやな女と言われても、まだ引きづってるのかと言われても、アユコはそれでもいいという覚悟だった。だって、仕方がないことだもの。話し終わっても、三人は何も返してこない。アユコはとても不安だった。やっぱり話すべきじゃなかったと後悔した。三人はずっと、何か何を考えているのか分からない表情でアユコを見ている。どうせ、しあわせゆきをでたら三人とも他人。もう何もかもアユコは覚悟の上だった。
「ごめん、怒鳴って・・・・・・。」
すると急にシュンがそう言った。どうやら反省しているようだった。シュンは、取り返しのつかない後悔をよく知っていた。もうどうにもならないことを悩むのは、おかしいことではないと感じ取っていた。それも、自分のことよりももっと重大なことだったので反省する思いが深まった。
「俺、ただいらだってただけ。それだけなんだ。」
シュンはそして恥ずかしそうにそう言った。実を言うと、アユコの泣き顔を見ていると妹の顔が思い出されてすごくイライラしていたのだ。いつもは妹が泣いていると普通になぐさめたり怒ったりもできてすぐ解決するのだが、他人だとそんな簡単にはなぐさめたり怒ることもできないのでイライラがたまらなかった。妹のことを思い出すことなんて余計に今のシュンにはいらだつものだった・・・・・・といっても結局シュンは怒ってしまったのだけれども。
「大変だったでしょう?」
カズマは優しくそう言った。
「大丈夫ですよ。親友が一緒にいてくれるのって、とっても心強かったと思いますよ。」
タカギも優しくそう言った。
「今のおまえ、親友が納得できるようなアユコじゃねえぞぉ?」
シュンも優しくそう言った。アユコは、三人に笑顔を見せた。その笑顔は、三人には想像もできなかったような顔だった。きっとこれが、本当のアユコなのだろう・・・・・・。
「おまえ、すっげえ笑顔じゃん!誰か写真屋でもいねえのぉ?」
シュンがあわててそんなことを言い始めた。子供が写真屋なんて経営しているわけがないのに。その慌てようはあまりにもすごかったので、みんなくすくすと笑ってしまった。
「な、なんなんだよ!もしかして俺で笑ってるわけ!?俺なんかした覚えねぞ!」
シュンはまだ慌てている。今しているっていうのに。アユコは久しぶりに幸せを感じたような気がした。まさかアユコは同情してくれるとは思わなかったのだ。いつも自分の部屋に閉じこもって泣いて、親は「悲しむじゃない!」とか「そんな顔見せちゃいけないだろ!」とか、あまり同情するというか怒っているような感じだったからだ。だから余計にアユコは自分を責め続けていた。自分に同情する人間が現れるだなんて思っても見なかったのだ。
「ケ、ケータイなら僕・・・・・・。」
するとタカギがバッグからケータイを取り出した。どうやら写真が取れるケータイらしい。けれどもシュンはそのケータイを急にじっと見た。何も言わない。それもすごく真剣な顔で。三人はびっくりしてしまった。何かあったのではないかと。またはまた怒り出すのではないかとも思った。三人の心臓がバクバクした。するとシュンが少したってからこう言った。
「ケータイって、何?」
三人には信じられないことだった。シュンは三人が唖然としているのに、まだ気づいてはいないようだった。
つづく
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